その後の記憶はない。
気がつけば、あたしは自分の部屋にいてベッドの上に座っていた。
お母さんは痛めた足首に湿布を貼ってくれている。
先輩はどうしたんだろう。
わからない。
「ねぇ、さっきの人、すっごくカッコよかったね。
手鞠ちゃんの好きな人?」
お母さんは大きな目をいっそう大きくしてベッドに座っているあたしを見上げる。
好きな人…………。
「うん。
麻生 久遠先輩っていうの。
学校でもとっても人気の人なんだ」
麻生先輩のことなのに、まるで自分が褒められたみたいに嬉しくなった。
「そっか……優しそうな人だね」
「うん!!
とっても優しい人なの!!
あたしがに……」
んぎょの姿になった時助けてくれたことは内緒だった。
そんなことがあったなんて知られたら、お父さんはともかくとして、
お母さんはとても心配するから。
危ない危ない。
思い出して口を閉じる。



