水中っていうこともあって、網はなかなか上手く切れてくれなかった。


あたしは、不謹慎(ふきんしん)にも網が取れなくて先輩とこのままいたいなんて思っていた。


でも、そんなことになったら先輩は人間だから、海の中で息なんてできない。


あたしを見捨てて地上に行ってしまうだろう。




なんか、複雑。




なんて考えていたら、網はやっと切れた。


先輩はあたしをお姫様だっこしてそのまま地上に顔を出した。




「ふぅ。

大丈夫?

人魚姫」


水から出た先輩は開口一番にそう言った。

鼻にかかった声がとってもカッコいい。




ぐっはぁ~。


その言葉にあたしはノックダウン。



目の前の先輩は、前髪を掻き揚げてあたしを見つめている。




先輩の澄んだ黒の瞳にあたしの顔が映しだされた。