しばらくあたしと先輩は無言の見つめあいをしていた。
そしたら、麻生先輩はおもむろに小さなナイフを腰から取り出したんだ。
それを見たあたしは、そりゃパニックだよ。
なんたって、目の前にはめずらしい魚がいるんだよ?
人魚の剥製(はくせい)にでもされるんじゃないかってヒヤヒヤした。
しっぽに絡まった網をとにかくなんとかしなきゃ!!
あたしはバタバタもがいた。
そんなあたしの肩に、先輩は両手を置いてきたから、もうパニックもパニック!!
大大大パニックだよ!!
大大大パニックになると、もう体は動かなくなっちゃって、
息すらどうやってするのか忘れちゃった。
あたしの口からゴポって空気が出た。
そしたらね、先輩は自分の口元に人差し指を立てたの。
その姿に、あたしはまたうっとりしちゃってた。
その間を狙って、先輩はあたしのしっぽにナイフを持っていく。
でも、違ったの。
先輩の標的は虹色の鱗(うろこ)がついたしっぽじゃなくて、網の方だった。



