でもね、その時、やっぱり泣いてよかったんだ。

だって、あの人が来てくれたから。


あの人っていうのは、そう。


あの人。



麻生 久遠(あそう くおん)先輩。






泣きじゃくっているあたしの前に、突然大きな影がやって来た。

麻生先輩だ。


先輩は、はじめ、とってもびっくりしてた。


何回も何回もまばたきをして、目の前のあたしをじっくり見ている。


そりゃ、そうだよね。

だって、絵本の中でしか存在しないはずの人魚が目の前にいるんだもん。

仮にあたしが麻生先輩の立場でもびっくりしたと思う。




そんな先輩を目の前にしたあたしはっていうと…………見惚(みと)れてたの。


だって、だってだよ?

麻生先輩、とってもカッコいいんだもん。


黒髪が海の中でゆらゆら揺れていて、

あたしとは違った、がっちりした体。


スッキリしたあごのライン。



もう、カッコいいしか言いようがないんだ。