∮ファースト・ラブ∮


王子様っていうのは、もちろん麻生先輩のこと。


麻生先輩の力で、人魚から人間になれたあたしは……今、王子様の腕の中にいる。


一度は消滅寸前だったから、とっても危ない様態だったらしい。


そして……。



あたしを助けてくれたっていう魔女の一族さんのことも……。



あたしが聞いた、真っ暗闇の中の男の人の声も、きっとその人だろうって麻生先輩が教えてくれた。





お父さんとお母さんは、きっとあたしが消滅してしまったって思って悲しんでるから、早く電話をかけてあげてって、麻生先輩に言われた。



で、あたしは今、麻生先輩の携帯電話を借りて電話中……なんだけど……全然出てくれない。




留守なのかな…………?




寄せては返す波のBGMを聴きながら、何回も何回も耳元で繰り返されるコール音を聞いていると……。


「はい。

華原ですが……」


淡々としたお父さんの声が聞こえた。



あたしの口が嬉しさから一気に大きくひらく。

だから、麻生先輩は家にいる誰かが電話に出たんだろうって気づいたみたい。

あたしのお腹にまわっている力強い腕は、さっきよりも強い力になって引き寄せられた。



顔をあげて麻生先輩がいる方向、後ろへと顔を傾ければ……にっこり笑ってくれる。