今朝、ここに来るまでに、お母さんとお父さんに最後の『ありがとう』を伝えた。
お母さんは涙を流し、抱きしめてくれた。
いつも無表情なお父さんの顔は……とても悲しそうだった。
…………ほんとうは消えるまで、ずっと一緒にいたいけど……。
でも、あたしが消えるせいで、誰かが悲しむ姿は見たくなかった。
消えてしまうこと、勝手に決めてごめんね。
最後までわがまま言って、ごめんね。
――そっと目を閉じれば、
麻生先輩とはじめて逢った時の、懐かしい想いが、蘇ってくる。
あの時のことは、よく覚えている。
すっごく暑い夏の日差しで、我慢できなくなって、
海(ここ)に来たんだよね。
それで、海の水に浸かって、潜ったの。
海の中は、とても綺麗だった。
嬉しくなって、はしゃいでいたら、いつの間に猟師さんの網に引っかかっちゃったんだよね。
誰かに見つかったらどうしようって。
とっても慌てたっけ……。
そして…………。
麻生先輩と出逢ったんだ。



