「もういいよ。

香織、お前の好きにしろ」



尚吾は、皆まで言うなと、香織の前に手を出して、言いかけた言葉を止めた。


「尚吾……」


「あ、言っておくがな、俺が負けたのは手鞠ちゃんに、だ。

お前達のことじゃねぇよ。


正直、今だってお前達のことを許してねぇ」


「ああ。

わかっている」


念を押す尚吾に、ぼくは目をつむって応えた。




すると、尚吾は草の上から腰をあげてゆっくりと立ち上がった。



「じゃあな」





ひとこと、そう言ってぼくたちから背を向ける。



「尚吾!!」


尚吾の姿が見えなくなる直前、香織が彼の名を呼んだ。



だが、尚吾は振り向かなかった。

そのまま真っ直ぐ前へと歩き出す。



まるで、これから先、続く未来が彼を導いているような……そんな感覚があった。




「…………ごめんなさい。

そして……ありがとう」



ぽつりと言った言葉はすでに去った後の尚吾には聞こえない。

だが、香織の言葉は必ず尚吾に届いているだろう。


何せ、5年も付き合っていた仲なのだから――――。