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Side:
    .+*麻生 久遠*+.
    .+*Kuon asou*+.










「はは…………負けた。

負けたよ。



もー、完敗」


尚吾(しょうご)が両手を挙げてそう言ったのは、手鞠(てまり)ちゃん達がいなくなった少し後のこと。



尚吾が笑った顔なんて、久しぶりに見た。


今まで誰も、尚吾の感情なんて気にしていなかった。


ぼくも自分のことで手一杯で――――。



しかも、自分を蔑(さげす)んでばかりだった。





『あなたは自分を誇れますか?』




手鞠ちゃんの強い意志と相手を気遣う優しさ。


あの言葉が、ずっとぼくの胸に響いている。




――考えもしなかった。



他人を想うことで自分にも勇気が湧いてくるなんて……。


気づこうともしなかった。


自分だけが苦しい思いをしているのではないと……。







「尚吾…………わたし……」

ぼくの腕の中にいた香織(かおり)がそっと口を開いた。



尚吾は笑うのをやめて香織を見つめる。


だが、その顔は、すでに憎しみという感情はなく、晴れ晴れとしたものだった。