紀美子先輩はあたしの視線に気がつくと、ウインクをして尚吾さんと向き合った。



「さあ、手鞠ちゃん。

言いたい事があるなら今だよ?」




あたしは紀美子先輩にコクンとひとつ、うなずいて、チラリと麻生先輩を見る。


うなだれている香織さんの背中に手をやる麻生先輩の姿は、とても優しい雰囲気だった。



ふたりは今や、相思相愛の仲になったんだ。



そう思えば、チクリと胸が痛んだ。



でも……それでもいい。


麻生先輩が、笑ってくれるのなら……それで…………。




あたしはキュッと唇を噛みしめ、地面に倒れている尚吾さんに視線を移す。



「ふははははは!!

何だよ。

俺ひとり、悪もんかよ……ふざけんな!!


久遠……お前さえいなかったら、香織はずっと俺を想ってくれていたんだ!!

お前の所為で……お前が……お前が香織を!!

泥棒!!」



ちがう。


ちがうよ尚吾さん……。



「尚吾さんは……今、香織さんが好きですか?」



麻生先輩を睨む尚吾さんに向かって、あたしは訊ねる。


尚吾さんは、あたしの顔を見ず、麻生先輩を睨みながら、「ああ」とひと言告げた。