∮***

Side:
    .+*華原 手鞠*+.
   .+*Temari Kahara*+.










「……………………」

尚吾(しょうご)さんの登場で、やっと開きかけていた香織(かおり)さんの口が閉じてしまった。


「ふん。

何も言うことがないんだろう?

ほら、いくぞ。

こんな意味のない会話は成り立たないんだよ」


そう言って、尚吾さんはあたしと紀美子(きみこ)先輩を通り抜けて香織さんの手を強くひっぱる。


香織さんは無言で、あたしたちから立ち去ろうとしていた……。


「待ちなさいよ!!

あんたに訊いてない。

あたしらは、井上さんに訊いてるんだ」


紀美子さんの声が静かな小高い丘に木霊した。



「話すことなんてない。

そうだろう?

香織。

……それとも……お前も俺を裏切ろうっていうのかよ?


どうなるか……わかってるんだろう?」


「わ……わた……し…………」


香織さんの体が震えているのが目に見えてわかった。


あたしはごくりと唾を飲んだ。



香織さんが本心を言ってくれることを願って……。



「わたしは久遠(くおん)の側にいたい。

もう……もうこんなこと……やめましょう?」


「香織さん……」

紀美子さんと顔を合わせて少し笑顔になったあたし。



その時だった。



香織さんを掴んでいた手は首へと移動したんだ。


「香織さん!!」
「井上さん!!」



「お前ら……俺をどこまでコケにすれば気が済むんだよ……」

それは……尚吾さんの醜くも、地鳴りの様な低い声だった。