表情も変えないで、出て行こうとするあたしの顔も見ずに、
ただ目の前にある新聞を見つめて、そう言った言葉。
ぶっきらぼうな言葉。
なのに……何でお父さんってこんなに偉大なんだろう。
涙が……引っ込めていたと思っていた涙が……あふれてくるの……。
せっかく……せっかく……何もなかったように過ごそうと思っていたのに…………。
ストン。
あたしの体は、重力に負けてしまった。
お父さんと向かい合う形で座る。
「……好きな人ができたの…………」
言葉を口から出せば、涙があふれはじめる。
必死に涙を止めながら言おうとすると、言葉が詰まってしまう。
沈黙が部屋を包む。
でも、お父さんは何も言わず、ただ新聞を見ていた。
それは多分、お父さんなりの配慮なんだと思う。
射抜くような目で見つめられると、言葉が出ないと判断したんだ。
心の中でありがとうとつぶやいて、また、ぽつり、ぽつりと話しはじめる。
「告白……してね。
オッケーもらったの……」
麻生先輩と一緒にいられるなら、泡になってもいいと思った。
ほんの少しでも近くにいたいと……泡になるまでは側にいたいと思った。
でも、その思いは違ったの。



