「たっだいま~!!」
ガチャリ。
あたしはいつも以上に、
できるだけ大きな、そして明るい声を出して家のドアを開けた。
「あ~おなかすいた。
今日のご飯はなあに?」
台所に行って、コンロの前に立つお母さんを見る。
「もう。
手鞠は……うがいした?
手洗いは?」
お母さんはあたしの姿に何も気づかない様子だ。
うん。
大丈夫。
泣いていたっていうこと、バレてない。
こっそり胸を撫で下ろす。
「知ってる。
今からするよ~」
洗面所へと嫌々進む。
――ほんとうは、早く顔を洗いたかった。
涙のあとを見られたくない。
だけど、その行動はいつものあたしじゃない。
そんなふうに動けばお母さんが怪しむ。
そしたら最後、事情を話さなければいけなくなるから。
あたしが……泡になるっていう事情を……。
思い出せば、麻生先輩の拒絶する言葉が甦ってくる。



