「へぇ。
俺がどんな奴か知っているっていう顔だね。
麻生……は言わないか……。
大方、あのおしゃべり野郎の葛野から聞いたのかな?」
男の人はあたしとの距離をなくすようにして、掴む右腕を強く握りしめてくる。
あたしは鋭い痛みを感じて顔を歪ませた。
「ああ、ごめん。痛かったね」
謝ってくるけど、全然謝っているようには見えない。
むしろ、痛がっているあたしを嘲(あざ)けっているように感じた。
「知っていてくれて光栄だよ、華原 手鞠(かはら てまり)ちゃん」
尚吾さんは、そう言ってあたしへと顔を近づけてくる。
やっとのことで思考は回復し、体が硬直状態から解放される。
あたしは掴まれている右腕を尚吾さんの手から抜き取ろうとする。
だけど、力が半端なく強い。
あたしの右腕はギリギリと軋(きし)む音を立てる。
掴まれている腕がとても痛い。
痛みから解放されようと力を抜けば、あたしの体は尚吾さんの体とくっついてしまう。
「麻生が気に入るわけだ……そういう強張(こわば)っている顔を見ると奪いたくなるほどかわいいね」
「や……やだ!!
放して!!
やっ!!」
体をひねってやって来る尚吾さんをかわせば、掴まれた右腕が悲鳴をあげる。
右腕が痛い。
とても痛い。
痛いけど、ここで口を開けて悲鳴をあげれば、よけいにひどいことになりそうだ。
あたしは必死に唇を噛んでやって来る痛みと迫ってくる尚吾さんをかわすしかなかった。
「へぇ。
他の女とは違うんだね。
前の麻生の女は……こうすれば、泣き喚(わめ)いたのに……」
尚吾さんは、鼻先で笑うと、空いている手であたしのあごを掴んで束縛してきた。
尚吾さんの唇があたしの口へと近づいてくる。
キスされる!!



