そう思ったのは、この男の人の顔が……なんだか陰になっているようだったから。
それに……口角は上にあがってるけど、目は……笑っていない。
…………なんだろう。
この男の人が…………怖い。
「なんでも……ないです」
恐怖でカラカラになる口の中を唾液が出るよう喉を動かし、言った言葉は震えてしまう。
この人は麻生先輩の友達なんだから大丈夫。
性格は違っても、きっと立場は葛野(くずの)先輩みたいな感じの人だ。
そう言い聞かせるものの、体はあたしの意思に反して震えてしまう。
「本当に大丈夫?」
一歩、また一歩と男の人はあたしとの間合いをつめてくる。
あたしの足は、勝手に男の人から遠ざかろうと後ずさってしまう。
これは、相手の男の人に失礼だと、思っても体は言うことを聞いてくれない。
「あ、あの……麻生先輩の話ってなんですか?」
この奇妙な行動を誤魔化(ごまか)そうと口を開けば、男の人の動きは止まってくれた。



