ごめん。


ごめんね。


手鞠ちゃん。




ぼくは醜い自分から逸(そ)らすため、紀美子と手鞠ちゃんに背を向けた。


パチーン!!



また、大きな乾いた音が聞こえた。

そして、彼女の声も……だ。


ぼくの足は自然と彼女の方へと向いていた。




「あたし、麻生先輩が好きなんです!!

この想いはあたしだけのものだ。

あなたに何か言われる筋合いはありません!!」



その声は手鞠ちゃんだった。

手鞠ちゃんは右の手を胸の前で拳をつくって、左頬を押さえている紀美子を見据えていた。


二度目の大きな乾いた音はどうやら手鞠ちゃんが紀美子を叩いた音だったらしい。


その瞬間、彼女の決意と、強い意志が萎縮(いしゅく)しているぼくの心臓を貫いた。


手鞠ちゃんは、自分よりも背の高い、しかも年上の紀美子と向かい合うようにして立っていた。


下がりかける眉根を必死に吊り上げて、大きな目に溜まる涙を隠すその姿は、とても勇ましいものだった。




そして、ぼくの心に、ひとつの大きな感情が芽生えたのを実感した。
















――――愛おしい…………と。





















――ああ。

手鞠ちゃん。





君は…………君はなんて…………。