マリア

 “あした、またくる”男が残した魔法の言葉。その言霊は次の日になっても、尚まだ耳元で囁いている。いったい昨日の出来事は何だったのか。見ず知らずの男と……。マリアは自分が体験した事をまだ信じられなかった。今まで男と付き合ったことが無いわけではない。キスもしたしSEXだってしている。ましてや初対面の男など、マリアは特に苦手なはずだ。でも昨日のキスは全てが違っていた。こんな事があるのだろうか?あの男に触れられ、感じたエクスタシー。思い出す度に体の芯が燃えるように熱くなるのだった。
 次の日も同じようにマリアは店に出た。男が残した言葉を胸に、まるで初恋の相手を思うように出番を待つ。この日マリアの出番は最後の方だった。自分の番が来るのはまだ先なのに、舞台の袖で早くから客席を覗いてみる。だが人気のショーが終って客の数が減っても、あの男の姿を見つけることは出来なかった。
 あの言葉は嘘だったのか……それとも、本当に夢だったのではないのだろうか。そう自問自答を繰り返し、とうとう男の姿を探せないまま自分の出番になってしまった。
 いつものポーズを取り、ステージでスポットライトを浴びる。舞台に立っている間は、ライトの逆光でほとんど客の顔は見えない。それでも、もしかしてあの男が見ているのではないかという期待を胸に、マリアはステージに立った。頭と体が、あの男を思う度に熱く火照る。まるで自分の体から湯気が出ているのではないかと錯覚するほどだ。実際、マリアは異様な熱気を纏って踊っていた。数人しかいない客も、はじめはいつもの反応だったが、次第にマリアの出すいつもと違う雰囲気に気づきはじめる。マリアは男の事を考えるうちに、顔には憂いを帯び、身体は官能に身を任せ、何ともいえぬフェロモンを出し踊っていた。何人かの客はステージ近くの席に移って来、生唾を飲む者もいる。その日のマリアは格別だった。