マリア

医療センターの長い廊下を、夏の夕日が照らす。山の頂上に建っているので、真っ赤に燃える太陽が近く感じる。マリアはその中をトボトボと足下をふらつかせながら歩いていた。
 マリアは頭に靄がかかったように、思考がはっきりしなかった。さっき、徳二郎は何と言ったのか。「長くない」という言葉。それはどういう意味?知っているはずだった。でも、違う意味であってほしい。だけど、徳二郎はその後、マリアにこう言った。
『ここのところ“アダムⅡ”の力が弱まっているんだ。だから薬の頻度も少なくなってきている。でも甘く見て今回みたいなことになったんだけど。それでもヤツとは長いつき合いだからね。僕の体も、もう若くない。ヤツのせいで見た目は二十代だけど体の中はボロボロなんだ』
 マリアは信じられなかった。確かに徳二郎は天使のように華奢なイメージはあるが、なにひとつ他の青年と変わらない。まるで絵空事を聞いているようだったし、いまだに自分と別れたい良い口実を作っているだけとも思える。