マリア

「何から話せばいいのかな」
 徳二郎はマリアが落ち着くのを待って、ポツリ、ポツリと話し始めた。
「僕はね、海の近くで生まれたんだ。お金持ちじゃなかったけど、父さんも母さんもいて、とても幸せだったよ」
 徳二郎は懐かしそうな瞳で、カーテンが風にそよぐ窓際に目をやった。
「僕がね、四歳になったときだった。僕がふつうじゃないってわかったのは」
「普通じゃない?」
「そう。僕があまりことばをしゃべらないから、父さんと母さんはどこか僕がおかしいんじゃないかって。医者に見せたんだ。はじめはね、耳が聞こえないんじゃないかって。でも、耳は聞こえていた。それでお医者さんがいったんだ。僕は自閉症だって」
 自閉症。マリアは何となくわかる気もしたが、言葉を喋らないとそうなのか。確かに徳二郎は喋るのが苦手なのは感じていたが。
「そのときはね、ほかに僕の病気を表す病名がなかったんだよ。だから医者は“自閉症”って思ったみたい。でもね、それからも僕は他の子と違うところがいっぱい出てきたんだ」
 徳二郎はちょっと悲しそうに笑って見せた。