「徳二郎から預かってきました。彼から私のことは聞いてらっしゃらないでしょう。急な事なのですが、徳二郎は体調を崩して入院したんです。貴女が心配なさらないよう、手紙を預かってきました」
 マリアは原田が喋っている最中に、すでに手紙を開いていた。何をこの男は言っているのだ。徳二郎が入院?今日一緒に家を出たときは何でもなかった。きっとこの男に連れて行かれたのだ。そう疑問を抱きながら、手紙を読んだ。
『マリア。今日は迎えにいけなくてごめん。ちょっと具合が悪くなっていま病院にいるんだ。このひとは僕の友達だから安心して。すぐに帰れると思うから心配しないで。 徳二郎』
 手紙に目を通してもまだ信じられなかった。これは本当に徳二郎が書いたものなのか。そうだとしても無理矢理に書かされたとも思える。マリアが考えていた通り、徳二郎はどこか金持ちの息子だったのだ。この原田という男は親類かなにかで、徳二郎を家に連れ戻し二度と自分に会わせない気だ。
「では、確かに手紙はお渡ししましたよ。私はこれで……」
 マリアは立ち去ろうとする原田の裾を反射的につかんだ。物の良いスーツに皺が寄る。
「待って。まだ話は終わってないわ」
 振り返った原田が、点滅する明かりの中で不気味に見えた。