「確かに。資料は破棄したわ。許せなかったから。今日の会議で、『資料を用意できませんでした』って言う貴方を見たかった」

「それは残念だったな。会議には、きちんと間に合った」

「そのようね。手にあるファイルを見ればわかるわ」

 ゆかりがぷいっと横を向いた。

「どうしてそう……完璧にこなしてるのよ。ズルいじゃない」

 ゆかりがソッポを向いて、小声で呟いた。

「ズルい?」と俺がゆかりの言葉を繰り返した。

 完璧に仕事をこなして、尊敬されるならわかるが、『ズルい』と言われるのは納得いかない。

「ますます格好良く見えて、むかつくって言ってるの! 大輝の焦ってる姿を見たくて、やったことなのに。堂々と会議に出席して、たった一日で破棄された資料を完璧までにも復元して、何事もなかったようにスピーチしちゃって。ほんと、むかつく。何でも完璧にこなして、ダメなのは恋愛だけだなんて。それも結婚しちゃって『ダメ』とも言えなくなった」

 ゆかりが俺に背を向けた。