夜にケンタと電話している時も話題は安藤里香のことだった。
ベッドに寝転がりながらまた愚痴っていた。
「安藤さん、初対面の私に向かって怒鳴ったのよ。信じられないよ、もう。」
「俺もあの人なんだか苦手だな……」
その言葉に驚いた。
「ケンタが誰かを嫌いになるなんて珍しいね。」
「いや、嫌いっていうわけじゃないんだけどさ……ネガティブなオーラで自分の殻にこもっている人って得意じゃないんだよな。それに……」
「それに?」
「朱里にはいつも笑っていてほしいから。」
受話器を耳元から外した。
その時、安藤さんのことを嫌いになるのを辞めた。
「ありがとう」
と一言だけ言って電話を切った。
もう一度明日安藤さんに話しかけてみようと思った。
しかし現実はフィクションのように上手くはできていなかった。
翌日教室に入ると理沙の周りに皆が集まっていた。
その中心でたしかに理沙は泣いていた。
理由はわからなかったが、教室の左端に安藤さんが一人で座っているのを見ると少しは予想が付いた。
「ねぇどうしたの?」
ケンタに尋ねてみた。
「あいつが理沙の携帯をいきなりへし折ったんだよ!」
わけがわからなかった。
柴田が安藤さんに近づいた。
そして安藤さんの机をおもいっきり倒した。
クラスのみんなは黙ってそれを見ていた。
「お前、自分のやったことわかってるのかよ!」
安藤さんは柴田を睨みつけた。
「なんだよその眼……」
「あなた、井上さんのことが好きなの?」
井上とは理沙の名字である。
「そういう話じゃねぇよ。人間としてお前が許せないんだよ!」
いつになく熱い柴田だった。
柴田は安藤さんを掴みあげた。
「セクハラ……」
安藤さんは冷静なままだった。
