私たちはそのまま渋谷の映画館に向かった。
着いた時刻は6時を回っていた。
「ラッキー。あと20分で上映開始よ。早く中に入りましょう。」
席に着くとケンタは山盛りのポップコーンを持ってきた。
それは二人の席の間に置かれた。
「ありがとう。」
そう言うとケンタは
「飲み物までは何がいいかわからなかったから買ってこなかったぜ。」
と少し照れているようだった。
しばらくして上映が始まった。
『七色の旋律』という映画である。
もともとは小説で100万部を突破したベストセラーである。
その小説を読んだことがなかったが、なぜかどこかで見たような記憶があった。
もちろん、映画館に見に来た覚えもない。
映画が終わってケンタに面白かったかと聞かれた時は返答に困った。
「あっうん。でも前に見たことのあるようなストーリーじゃなかった?」
「お前小説読んだのか?」
「そうじゃなくって…」
自分の勘違いだと思ってこれ以上この話をするのをやめた。
「お前今日なんか変じゃないか?」
自分でもそうは思っていたが上手く言葉にできず
「またね。」
と言って先に帰ろうとした。
「待てよ。もう8時回っているし…その…家まで送って行くよ。」
ケンタは恥ずかしそうにそう言った。
そのまま家までケンタに送ってもらった。
映画の話や部活の話などで盛り上がっていたらすぐに住んでいるアパートの前についてしまった。
「それじゃあ…またね」
つないでいる左手を離した。
「俺、いや…明日また学校で。」
その時ケンタが何を伝えたかったのかはよく分からなかった。
アパートの階段を上った。
カンカンと上がるたびに金属音が響いていた。
二階の廊下で鞄の中の鍵を手探りで探した。
「あれ?」
手すりから下を見るとさっきケンタがいたところに知らない中学生くらいの女の子が立っていた。
しかしどこかで会ったような気がしていた。
この気持ちは何であろうか。
