あたしと杏はクラスが別だから、いやでも別れなきゃいけない。
そんな暗い気持ちを背負いながら、教室に向かう。
ふと見上げた空には、雲なんてなかった。

めんどうだった(意地っぱり)選抜も無事・・・とは言えない形で終わって、残すはほんとに中体連だけだった。
あたしはなんとしてでも碧いボールを手に入れなければいけない。
正直、最近バタバタしすぎてすっかり忘れてたけど。
中体連までもう3ヶ月もない。時間が過ぎるのは早いなぁ、としみじみ思う。
今日の練習も普通に普通で、特に何も無かった。

家に着くと、お父さんがエプロンをしてキッチンに向かってた。
その後姿は楽しそうで、最近のお父さんはほんとに変わったなぁと思う。
前より接しやすくなった。拒否されない分、親しみやすい。
「お父さん、ただいま!」
「おかえり。楽しかったかい?」
「当たり前でしょ!部活で楽しくなかったことなんてない・・・よ」
「ん?なんだ、その間は?」
一瞬、条件のことが脳裏を駆け巡ったけど、その映像はすぐに消えた。
「そんなのないよ~。聞き間違えだって!」
「いや、別にいいんだ」
その後は、お父さんと他愛もない話をして、部屋に戻った。
今日は早く寝たい気分だった。

「何?ここ、どこ?」
誰もいない空間に、一人声を投げかけてみる。
見れば見るほど透き通ったその場所は、色あせてみえた。
いや、リアルに色がないのかも。
それに、この場所は見たことがある。
前に一度だけ、訪れた場所。あたしの約束の地。これから果たされようとする約束の、その場所・・・。
トンッと、聞きなれた音がした。その音はどんどんあたしのほうに近づいてきて、あたしが目をつむると、目の前で止まった。
あたしがビクッとしたのに感づいて、音は少し離れた。
目を開けると、瞬間、あたしの手の中には真っ青なバスケットボールがあった。
あの音はドリブルの音。きっと、ドリブルをしていた人がこのボールをあたしにパスしたんだ。
そしてこれは、あたしの探す碧いボール・・・。
幻のボール。
それは想像よりずっと美しく染められていて、こんな空を見られるものなら見てみたいと思った。
だけど、まだ中体連にもなってないというのに、なんでこれがあたしの手中にあるんだ?疑問はそこだったけど、まあいい。いつかわかるかもしれないから。
すると今まで黙っていた相手は、あたしを軽く手招きした。
あたりは薄暗くて、フワッと霧に覆われている。