あたしは芦田から全て聞き終えて、びっくりした。
いや、それは誰でもびっくりするだろうけど。
あたしは、まったく知らなかった。
キャプテンなのに、部員だけでなく顧問の異変にも気づかないなんて。
芦田が抱えているのと同じくらいに、あたしも悩んでる。
自慢じゃないけど、芦田に負けないくらい悩んでるよ・・・。
芦田の秘密を聞き終えて、ストレートに干渉するのも気が引けて、あたしは自分の悩みを吐き出すことにした。
今までなら芦田が目の前にいるだけでイライラしていたけど、それをこらえて話を聞いてよかった。
今なら、芦田のことも心から受け入れられる。

あたしは全部芦田に話した。

芦田はなぜか泣いてくれた。
それが偽造なのか、本心なのかはあたしにはわからないけど、心の奥が熱くなって。
目から涙があふれて止まらなかった。
あたしたちはただ泣き続けて、目の赤みが引いたところで教官室を出た。

その日、芦田は「考え直したい」と言って早退してしまった。
でも・・・

次の日から、芦田は休むことなくあたしたちに指導してくれた。
みんなは素直に喜んでいた。
・・・・・・良かった。
芦田・・・いや、芦田先生、これからも、よろしくお願いします。


  杏Side
有希と芦田が教官室に入って、あたしはずっと、いつ出てくるかと見ていたけど、なかなか出てこない。
あたしは、いけないことだとわかっていても、やってしまった。
教官室の薄い扉に耳を近づけて、会話を聞いていた。
芦田が何か話していたけど、あまり聞こえなかった。
次に、有希が悩みを話し始めた。
悩み・・・っていっても、カウンセラーとかそんなのじゃなくて、もっとリアルな悩み。
あたしたちのことと、父親のこと。
あたしはそれを知っていたから別に驚かなかったけど、次の瞬間、教官室から泣き声が聞こえてきた。
有希が慰めてるから・・・泣いているのは芦田だ。
芦田・・・何やってんの?
大人のくせに、バカじゃないの??
そう思ったけど、きっと有希にしか話していない過去があるんだ。
しばらくして有希と芦田が教官室から出てきて、芦田はすぐに帰った。

驚いたのは、次の日から芦田が休まずに練習にきて・・・顧問らしいことをしてたこと。

「条件」・・・もしかしたら、もしかしちゃうかも。