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砂龍族の王女リタ姫が旅立って、六日目。――


ランディー王がいる謁見の間は、どこか寂しげだった。


王は玉座で、考え事を始めた。


(リタ……。


今頃順調に、戦士達を覚醒させて――いや、のんびり屋なあの子のことだ。


多分今は、葉龍族の樹海に向かっていることだろう)


王が娘の行動について想像していた時、いつものように爺やのギルスが謁見の間に入る。


今回は左手に、紙切れのような物を持っている。


「ギルス、毎度苦労をかけてすまない。ところで、左手に何を持っている?」


「これは、リタ殿下からのお手紙です。前のように、陛下宛てだと思うのですが」


そう言ってギルスは、王に手紙を渡す。


「これ、ギルス。他の魔族に宛てた物を勝手に読むなと、いつも言っているだろう」


王はギルスを叱った。


彼はルーペを使いながら、娘からの手紙を読む。


『父上――


突然このような手紙を送り、申し訳なく思っています。


火龍神殿で火系魔道師に会い、私達を領国で処刑するためにまた捕まえると言ってきたのです。


下手に王国に戻ると、父上の身も危険にさらされるので、真実を知るまで帰省は避けようと思います。


私が戻るまで、どうかご無事でいて下さい。


――あなたの娘、リタ』


王は手紙を読み終えると、溜め息をつく。


(たかが娘の手紙ごときに、ルーペや眼鏡を使わなくてはならないとは……。


砂龍王とはいえ、私も歳には勝てんな)


砂龍王は、手紙を再びギルスに渡す。


その時彼は、微笑を浮かべた。


「陛下、どうかなさいましたか?」


ギルスに問われ、王は我に返り、「何でもない」と返す。


ギルスが謁見の間を出た後、彼は少しの間だけ玉座から立ち、部屋の窓を覗く。


(十柱の龍神達よ。どうか亡き妻と共に、娘を見守って下さい)


ランディー王は、心の底から神々及び彼の后に祈りを捧げる。