ナンシーは、族長から炎の形の石を受け取った途端、目を丸くした。


(これ、≪業火のルビー≫じゃない。


確かこの宝石は、お父さんが大事そうに持ってた物よ。


でも、なぜ、これを族長が預かってたのかしら?)


ナンシーは脳裏に疑問を浮かべた。


が、このことは敢えて質問しないわ、と彼女は心に決めた。


ヨゼフは今回の冒険で、疑問に思ったことを、族長及び自分の仲間達に持ちかける。


「僕はまだ、納得いかないな。


僕達が出発する前、『神殿内に不審者が侵入してるから、調べてほしい』と、族長は言った。


でも実際に神殿に行ってみたら、不審者はフィアロス以外に誰もいなかった。


族長が嘘をつくなんて、おかしいと思わないか?」


ヨゼフの意見には、リタもナンシーも納得している。


「確かに、その通りだ。


族長、どうして神殿の不審者退治依頼などと、嘘をついて私達を行かせたのですか?」


リタは、族長の本音を確認する。


彼は少し俯き、また顔を上げて三人に、本当のことを話す。


「ヨゼフの言う通り、私は≪不審者退治≫と嘘をついて、君達を神殿に行かせた。


だが、もしも『火龍神が≪新たな火龍戦士≫の覚醒を待ってるかもしれない』とだけ言えば、君達はあそこへは向かわなかっただろう」


「と、言いますと?」


途中から神殿長が口を挟み、説明する。


「君達も薄々感じてるだろうけど、最近キアの一味の魔道師も、よく神殿周辺を徘徊してるそうだ。


最も、神々の神聖なる力に惹かれてるのかどうか、真偽の程はわからないがね」


「……」


族長との対面を終え、リタ達は外に出る。


ナンシーが、二人を彼女の家に誘う。


二人は彼女の言葉に甘え、泊めてもらうことにした。


三人は食事の後に、風呂に入り、現状を纏めるために食卓に集まる。