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レザンドニウム領国の領主であるキアが、初めて自分の魔力で≪闇の大蜘蛛≫を召喚したのを機に始まった、≪闇の大蜘蛛バウト≫――


未だ勝利した奴隷はいないと言われる程の破壊力と素早さを併せ持つ黒い大蜘蛛との戦いが今、リタ達によって繰り広げられている。


(キアの野郎。こんな大きい図体の蜘蛛を最初は一人でやらせておいて――かと思ったら今度は、次から次へとルールを変更する……。気紛れも良いところだよ!)


ヨゼフはいつもの癖で、キアや他の魔道師達には言えないことを想像していた。


「じっとしてな!」


リタはいつもの男口調で言いながら、特異な形の武器で大蜘蛛の脚を掴んだ。


彼女が使っている武器は、≪サンディー・ターロン≫という物で、掴んだ相手を一瞬で砂まみれにしてしまう。


これらの武器は全て、武器商人も兼ねている魔道師達によって造られている。


さて、話は元に戻るが――


リタ達は、客席からの声によるプレッシャー、大蜘蛛の翻弄するような動きに悪戦苦闘しながらも、無事に勝利を収めることができた。


が、それで脱出権を得たとはいえ、観衆の声は全て、領主であるキアの方に向けられている。


「キア様万歳……」


「レザンドニウム領国万歳……」


三人は半ばつまらなさそうに、観衆が掲げる文句を、おうむ返しのように言った。


彼女達は、観衆の声で盛り上がっている隙を見て、城の裏口から脱出した。


(父上、今頃私のことを心配してるだろうなぁ……。よし、早速王国宛てに手紙を書こう)


リタは早くも仲間達に会える、という気分になっていた。


彼女は生き別れた魔族達と再会し、彼らに自分自身のことを知らせるため、ヨゼフやナンシーと共にフィブラス砂漠まで旅をするつもりだ(キアが何を企んでいるのかを、探ることも兼ねているが)。


「武器はどうする?」


「そうだね……。手がかりのために、このまま持って行こうよ」


「『手がかりのために』って、どういう意味よ?」


ナンシーはリボンで髪を結いながら、訪ねた。


「もちろん、キアが何のために私達を奴隷にして、闘技場で≪闇の大蜘蛛≫と戦わせたかを、私の父、ランディー王に説明するための手がかりって意味さ」


リタは早口で、二人に冒険の目的を伝えた。


今、彼女達は、冷酷な領主に関する情報収集と、砂龍族と再会することも兼ねた冒険に出発しようとしている。――