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水の都アヌテラが、だんだん小さく見えてくる。


ヨゼフはそれを、寂しげに見ていた。


リタ達の次の目的は、ナンシーの故郷であり、火龍族の里でもあるスクルド町だ。


この町は、水の都アヌテラから東に五十キロ行った所にあるデラル島に位置している。


更に、その町の外れには火山が聳えている。


「デラル島にはスクルド町の他に、葉龍族が住むバデリウスの樹海もあるのね。一気に二ヶ所の神殿を冒険できて、一石二鳥ね」


ナンシーは、浮かれて言った。


「おいおい、ナンシー。水の都の神殿で、私達は大苦戦を強いられたんだよ。それを教訓にするためにも、冷静に物事を運ぼうよ」


リタは、ナンシーの自惚れを制止した。


しばらくして、ヨゼフが二人の所に戻ってきた。


彼も地図を見ながら、次の目的地を確認する。


ふと、リタはある魔族を思い出す。


その魔族は、彼女達のようにレザンドニウム領国の奴隷だった葉龍族の者だ。


「ねぇ、君達。この地図にある≪バデリウスの樹海≫という文字を見てると、ヒアっていう魔族を思い出さないかい?」


リタの急な発言に、ヨゼフ達は驚いた。


いつもの彼女なら、誰かを彷彿させるなどといったことは口に出さない、と思っていたからだ。


「ヒアって……。九年間、僕達と同じ部屋で奴隷生活を送ってた、あの葉龍族の弓使いのこと?」


「ああ。もしかしたら、今頃はレザンドニウムを脱出してるかもね。故郷のこともありそうだしね」


「そういえばヒアは奴隷になりたての頃、『俺は両親を犠牲にした。そして俺自身は、妹を守るために自分から奴隷になった』って言ってたわ」


三人が≪もう一人の奴隷戦士≫の話をしている間に、船長がデラル島に到着したことを告げた。


(リタとヨゼフは、砂と水の龍神から武器を授かって、元の姿に戻った。でもそれは、二人が龍戦士としての素質や資格を持ってたから。私には、それなりの素質や資格があるのかしら?)


ナンシーは船を降りた時から、ぼんやりとそのようなことを考えていた。


「ナンシー」


リタの声が聞こえたので、彼女は我に返った。


リタが「どうしたの?」と訪ねる。


ナンシーは「大丈夫、何でもないわ」と言って、二人の前に立つ。