ガルドラ龍神伝―闇龍編―

『へへ、うまくいったな』


ペレデイスが、念を押して小声で言った。


『ええ。しかし、ニアロスさんがあんな可愛らしい偽名を使うなんて、予想外でした』


ニアロスをからかうように、アイルは低く笑う。


それに対し、ニアロスは顔を赤らめる。


『アイル――いや、デュハム。


まだ喜ぶのは早いよ。


変装を解くのは、囚われたメアリーを助けてからさ』


十人はまるでこそ泥のような仕種で、城の牢屋を目指す。


彼女達は未だに変装を解かず、互いに偽名で呼び合う。


途中に飛んできた魔道族の矢や槍、そして矛をもかわし、戦士達を石段を次から次へと走りながら踏んでいった。


上の階に行けば行くほど、城の中は暗く、狭く、そして滑りやすくなってくる。


「わあ!」


アイルが足を踏み外し、下に落ちそうになった。


だが、それを間一髪で、ヨゼフが支えた。


彼はアイルの右腕を掴み、必死に引き上げようと、歯を食い縛る。


だが、アイルの体重がかかり、なかなか思うように上がらない。


それどころか、ヨゼフも一緒に引き摺られているように、リタにはとれた。


「ヨゼフさん、離して下さい。


このままでは、あなたまで落ちますよ」


「離すもんか!」


ヨゼフが怒鳴った。


アイルの口からは、思わず彼の本当の名前が漏れてしまった。


「しまった! 実名が……」


「そんなことはどうでも良い!


リタ、あんたも手伝ってくれ。


僕だけじゃ、アイルを引き上げられない」


最後まで諦めず、また仲間を思いやるヨゼフの意思が、リタの心に痛いほど伝わってくる。


彼女はそんな友の想いに応えようと、必死にアイルの右腕を引っ張る。


二人は石段の滑りやすさを逆に利用して自分達の方に体重をかけ、思いっきり引っ張った。


アイルは二人の力によって、無事に引き上げられた。


「すみません、二人とも。


僕のおっちょこちょいのせいで、多大な苦労とご迷惑をおかけして……」


「だ、大丈夫。礼なんていらないよ。


私達は同志で、友達だろう?」


リタは疲労感を見せずに、意地を張るように胸を強く叩いた。