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龍戦士捜しという長旅を終え、リタは仲間を九人連れて故郷に帰還した。


途中のトラブルをも乗り越え、ランディー王は一命を取り留めた。


とても砂漠とは思えないほど寒い夜の空気を肌で感じながら、ヨゼフ達は満月の明かりの下で、心地良く眠ることができた。


だが、夕食を抜いたために、腹の虫の音が絶えない。


ヨゼフの鬣を焼くように日が照り始めた頃、彼は目を覚ました。


(昨日は慌ただしかったな。


夕食抜きだったから、腹が減ってきたよ)


ヨゼフは空腹を気にしながら、ベッドの近くにある時計を見やる。


時計の針は、六時半を指している。


(まだ、こんなに早いのか……)


そう思いながらヨゼフは、同じ部屋で寝ている八人を無視して、着替えを済ませた。


「こんなにぶかぶかだったかな?


はじめてこの服を買った時は、そんな感じに見えなかったけど」


独り言を言いながら彼は、黄色い服の皺を伸ばし、櫛とヘアスプレーを持って鏡の前に立つ。


その時、鏡に映った自分の鬣がいつもより乱れているのではないか、と彼は思った。


ヘアスプレーをかけ、櫛で赤紫色の鬣をとこうとするが、なかなか櫛が通らず、彼は苛々していた。


「くそ、なんで通らないんだよ!」


その独り言を聞いていたのか、ナンシーが目を覚ました。


「もう、うるさいわよ、ヨゼフ。


朝から、何をそんなに騒いでるのよ?」


ナンシーは、不機嫌そうに言った。


櫛の先が乱れた鬣に絡みつき、なかなか上手にとけない。


その様子を見て、ナンシーは控えめに笑う。


「ヨゼフ、あなたはもしかして、櫛の使い方もわからなかったの?」


ナンシーに嫌味を言われ、ヨゼフは言い返す。


「仕方ないだろう?


今までリタにやってもらってたんだし。


それに、そうでなくても僕の鬣は長いから、一人で結うのは大変なんだよ」


「全く……。


ちょっと貸して?」


私がやってあげる、と言ってナンシーは、ヨゼフの腰まで伸びている鬣を櫛でといていく。


彼女は手際良く鬣を整え、緑色の紐を巻いていき、あっという間にいつものまっすぐな一本になった。


ナンシーは手鏡をヨゼフの後頭部に向け、彼に見せる。


「どうかしら?」


ナンシーは、半ば自慢げに言った。