職員室に戻り、帰宅準備を始める。

 いつものバッグに教材などを詰め込んで部屋を出た。

 傾く太陽は黄昏を呼び込み、静まりかえった廊下に現世を隔てる見えない境界線を描いているようだ。

 彼はふと思い出す。この学校には不思議な噂がまことしやかに広まっている事を。

『校内のどこかに異世界に通じる穴がある』

 そんなものを信じる人間がいるとは思えないが、なるほど勉強に行き詰まっていたり悩みを抱えている生徒なら信じているのかもしれない。