………夢を見た。
酷く懐かしくて、
でも断片的にしか思い出せない。
大きな門に真っ黒な車。
泣きながら手を振る少女、
そこまでしか思い出せない。
彼女は誰なのだろう………
そんな事を思いながら目を覚ました。
「起きたのね、
おはよう」
ふと目の前から声をかけられた。
声の主は九条さんだった。
「おはようございます。
起きてたんですか??」
するとなぜか九条さんが僕を抱き締めた。
「ど、どうしたんですかいきなり!?」
「あなたが悲しそうで、
ついね…
何があったかは知らないけど、
私にはこれぐらいしか出来ないから………」
九条さんはそっと僕の頬をなぞる。
その指先は朝日に照らされて光っていた。
「僕、
泣いていたんですか………??」
「ええ………
私が起きたときにね」
何故泣いていたのか、
ある程度予想がついていた。
「………夢を見たんです」
「夢??」
「はい。
とても懐かしくて、
昔の夢だと思うんですけど、
よく思い出せません」
また脳裏に手を振る少女が写った。