豹変上司に初恋中。


「……私、役に立ちたかったんです。頼りにしてほしかったんです」





少し聞き取りにくい、ろれつの回らない声。

泣きながら一所懸命話す姿に手を伸ばしたくなって、それを留める。

もう一度呉羽の声に耳を傾けた。



「――私がいるからですか? 結婚、しちゃうのも、」


そこまで聞いて、合点がいった。

多分呉羽が一度出てから戻って来たのは、俺と佳代が「あの女」の話をしている時よりも前。


「……聞いてたんだな」

「ごめ、なさ……」


酔って涙腺がもろくなったのか、泣きじゃくる姿はまるで子供のようで。

俺はわずかに口の端を持ち上げて、改めて手を伸ばして呉羽の頬に触れた。


「呉羽。お前のせいじゃない」



俺が、失いたくなかっただけ。