ーー

「……昴さん、お姉様に聞きました」

「……」

「会長さんの条件、飲んだそうですね」

「まだ、契約はしていない」


部屋の近くに行った時、中からそんな会話が聞こえてきた。


佳代さんと昴さん。

声色はどことなく重くて、ふすまに伸ばした手を留める。


「…ですがお姉様は時間の問題、と」

「--そうか」

「あの家を飛び出して縁を切ってまで、やり通していた仕事を、どうして急にやめるなんて……」

「……」


どうすれば良いんだろう。

聞いていてはいけない気がした。 

これはまだ、多分私が踏み込んで良い話ではない。