義助さんと晋作さんに置手紙を置いて
この場所で生活をするようになって数日。

私の親友だと名乗る瑠花さんと花桜さんは、
毎日のように訪ねてくる。


まだ記憶を取り戻すヒントも何もないけど、
その親友の証を繋ぐものとして、
二人はお揃いの不可思議なものを見せてくれた。


瑠花さんがお世話になっている
芹沢さんが言うには、瑠花さんと花桜さん
そして私は空に浮かんでる月から来たらしい。


長州の屋敷で見た不可思議な
布袋に入っていた物に似ている、異国のモノ。


それを二人も手にしていて、
それが私の過去を知る証なのだと説明された。


共に過ごす時間の中でも、
記憶が戻っていく様子は何処にも感じられない。




そろそろ帰らないと……。




義助さんと晋作さんが心配するよ。



そう思って、お世話になっている
前川屋敷をそろそろお暇しようかなって
思っていた頃、事件は起こった。


お茶の席で突然、まくしたてた
瑠花さんは崩れ落ちて屋敷を飛び出した。


その後を追うように飛び出した
花桜さんと芹沢さん。


そして……もう一人。
ガラガラになった屋敷。


私はゆっくりと屋敷を抜け出した。


今なら……抜け出せるよね。
後ろを、時折振り返りながら
町中に抜け出た私の前に一人の男が立ちふさがる。





「何処へ行く?」




落ち着いた声色で囁くように言う男。




「えっと……、宿に戻るんです。
 私、お世話になってる人がいて。
 置手紙だけで来たので心配していると思うから」



この世界で私が一番安心していられる場所は
やっぱり……義助さんや、晋作さんの近く。


どんなに瑠花さんと花桜さんが友達だって
迎え入れてくれても私はあの二人のことを知らない。