前川邸での私は……自由そのもの。


舞は今も記憶が戻らないけど
私の隣で、少し笑顔を見せてくれるようになった。


そして舞が帰って来てから
変わったことが一つ。


八木邸から一歩も出ることが許されなかった
花桜が、今は顔を出してくれるようになった。


必ず……八木邸側からは、
監視役の誰かがついてくるけど。


そして……今日も、
そろそろ花桜が訪ねてくる時間。



かまどで、お湯を沸かすと
お茶を入れる。



私、舞、花桜。
そして鴨ちゃんと、お梅さん。


あと一人、花桜の監視についてきた誰かのお茶。



「お邪魔しまーす」


お茶が入れ終わったと同時に、
花桜の元気な声が前川邸に響きわたる。


「いらっしゃい」


って、私もここが自分の家みたいに出迎えて、
花桜の後ろにたたずむその人を見て、
体が反射的に後ずさりする。


冷酷な瞳に美しい横顔。
流れるような黒髪。


『殺すよ』



この世界に来たばかりの頃
囁かれた声が記憶の底から一瞬にして湧き上がる。



思わず逃げ出しそうになるその足を
必死に踏ん張りながらぎこちない、笑顔を見せる。



この人が……あんなにも
歴史のドラマの中で大好きだった、
沖田総司だなんて……信じたくなかった。


夢と理想は……現実とは遠すぎるんだ。


必死に自分の中に言い聞かせる。