「おいっ、お前ら。
もっと火を持って来い」
お供の隊士たちに命じたかと思うと、
鴨ちゃんは、着物を翻して大和屋の前に居並ぶ。
騒ぎを聞きつけて、
駆け寄ってくる野次馬たちを前に大きく言い放った。
「壬生浪士組局長、芹沢鴨。
大和屋庄兵衛、この者は不当な交易において、
財をなし市場においての生糸高騰の原因を担いしもの。
国外と手を結び、民の生活を脅かす大和屋を成敗するものなり」
大声で宣言して、その炎に包まれた
屋敷の前で腕を組んで仁王立ちし続けた。
騒ぎを受けて、駆けつけてきた
久しぶりに姿を見た土方さんたちを制して。
ちょっと……鴨ちゃん、
アンタ馬鹿でしょ。
大馬鹿ものじゃない。
大和屋が燃えて行くのを感じながら、
私は崩れ落ちて声を殺して泣いた……。
歴史を知ってても、
未来を知ってても、
私は……今を知らない……。
「瑠花、帰るぞ」
どれほどの時間が過ぎた後だろう。
今も大和屋の炎が燃え盛る中、
鴨ちゃんに声をかけられるままに
フラフラとその体を立ち上がらせる。
鴨ちゃんの腕の中に包まれるように、
守られるように、
その場所をゆっくりと後にした。
私……どうしたらいい?
この不器用な大馬鹿ものを。
ねぇ……神様。
神様がいるなら教えてよ。
歴史を変えてもいいですか?



