「おはよう、瑠花ちゃん。

 芹沢さんも、
 せっかちなお人やねー」



笑いながら屏風を畳んで、
両手に着物を持って姿を見せるお梅さん。



「お梅さん、
 おはようございます」



花桜と違って和の心得なんてない私は、
この時代に来るまで着物とは縁がなかった。


当初、着物を着ることすら出来なかった
私を見て大笑いした二人だったけど、
今では、不恰好ながらも一人の時は
着つけられるようになった。

だけど……今度は髪結いが出来ない。



何せ、この時代に来て最初に袖を通した和服は、
着物は死に装束。

髪型は夜会巻。

帯はどうしていいかわからなくて、
ウエストにグルグル巻きにして、
リボン結びに前でしただけ。

見よう見まねで着物を着て
二人の前に出れたと思ったら大笑い。


そんな服装で接待する遊女も知らんなんて
言われる始末。


そんなこんなで、お梅さんに
一応、着付けと帯結びの入門分だけ教えて貰って
今に至る。



とりあえず今日も今から出掛けるみたい。

だけど着物って、
歩きにくいんだよね。


だからこの家の中で過ごす間は、
わざと丈を短めにして、
気合の生足をさらして着つけてみる。


そんな破天荒な私の着方が鴨ちゃんは
よっぽと面白かったのか、
時折、簪やお菓子を貢いでくれる。



お酒の席で聞いてくるのは、
鴨ちゃんが月と呼ぶ、私が過ごした現代の話ばかり。


あのめちゃくちゃな着方が月の着付けって
わけでもないんだけど、
いいような悪いような、鴨ちゃんは勝手に勘違いしてくれてる。



「はいっ。
 おしまい」




いつの間にか着替えが終わって、
簪をさしてもらうとお梅さんが優しくそう言った。



「瑠花ちゃんの最初の着付け方は面白いものやったけど、
 この現世の着方も板についてきたわね」

「お梅さんが毎日、教えてくれるから」




こんな風に……ここに来て数か月の間に
私にとっては、お梅さんはお姉さんみたいな
存在になりつつある。



たけど……私は知ってる……。