「花桜。

 何をそんなに取り乱しているのです。

 女子(おなご)たるもの
 いかなる時も堂々と、
 凛としてらっしゃい。

 その煩い足音を止めて
 背筋を正して品良く。

 お義母さまは……。
 
 貴女の、
 ひいおばあ様は……」



全速力で走る私を呼び止めたのは
お祖母ちゃん。


お祖母ちゃんは、
私の日舞や茶道・華道のお師匠。




うわぁ、
完全にアウトだ。



お祖父ちゃんに怒られるよ。




私、山波花桜【やまなみ かお】。


聖フローシア学園に
通学する高校二年生。



そして今日はインターハイ。

剣道の全国大会当日。


戦いの前に、お祖父ちゃんに手合せを
頼んでいたのに約束の時間に遅れて大ピンチ。



それもこれも、
あの夢のせい。





ここ一か月ほどずっと見る夢。





その夢は突然始まる。



最初に記憶に残るのは白装束。



そして……はっきりと顔の見えない
白装束のその人は穏やかに微笑んで最後を迎える。



何か……口だけは言葉を伝えようとしているんだけど
その言葉は声として届かないまま真っ暗な世界に
切り替わって私はいつも涙を流しながら目覚める。





何で泣いてるのかわからないのに
涙が止まらなくて寝るのが怖くなる。



どれだけ我慢しようとしても、
やっぱり何時しか眠ってしまうわけで
眠ったら……また始まるんだ。