お辰さん?

聞きなれない名前に私は戸惑う。



「うちは桔梗屋の辰路(たつじ)。
 義助はんのことは心配せんでもえぇ。

 あんたが、舞さんやね」



名乗る前に名前を呼ばれて、益々、戸惑っていると
お辰さんは、ゆっくりと私の手を取って自らのお腹を触らせた。



「義助はんのお子や。

 大火の火事で、全て燃えてしもうて焼け跡から見つけられたのは
 遺骨だけやった。

 けど……誰にも渡さへん。
 こうなる運命を義助はんは全て受け入れてた。
 
 見越してはった。
 どうぞ舞さんやったら義助はんも喜んでくれはるやろ。

 うちが見つけられたのは義助はんだけや。
 他のお人は福井の人が何処ぞへ連れて行ってしもうた」



斎藤さんが見つけ出してくれたのは義兄の恋人。


そして義兄は今、その人と長州贔屓の町人(まちびと)に寄って
ちゃんと守られてる。


お辰さんに連れられて赴いた場所は山荘の一角。


その場所に建てられたお墓。
静かなその場所で私はそっと手を合わせる。







義兄……私……もう一度長州に行こうと思う。
義兄とはちゃんとお別れできたから。

次は晋兄だね。

晋兄のところに帰るんだから、お辰さんが許可くれたら、
ちゃんとついてきてね。

文さんには内緒にしといてあげるから。







小さな墓石をゆっくりと見つめながら、
私はこの先の未来を思い描く。


真っ直ぐに見つめる先、辿りつく場所を信じて。



ゆっくりとお参りを終わらせると、
私たちはお辰さんお礼を伝えて屯所へと帰路についた。



ゆっくりと歩く帰り道。




暗闇に浮かぶ、お月さまが綺麗なそんな静かな夜だった。