「大丈夫。
 何時までも泣いてられないよ。

 ちゃんと前を向いて歩き出さなきゃ」

「よしっ。舞、良く言った。

 花桜も元気になったし、
 やっぱり私たち三人娘は、こうじゃなくっちゃ」


瑠花はそう言いながら、私と花桜の手を掴んで微笑む。


「そうだね。

 三人でちゃんと未来に帰れるまで
 力合わせて絆も深めてね」

「うん」



そうやって盛り上がる、瑠花と花桜。



だけど……この未来の結末はそんなものじゃない。



そんなものじゃないけど……瑠花と花桜なら、
私が知らない未来を見せてくれるかも知れない。



そんな風に思わせてくれる。



その日、久し振りに屯所での日々を一緒にやり遂げる。



朝食、掃除、洗濯。
そして……久しぶりに握った剣術の稽古。


木刀をお互いに構えて、花桜と二人、打ち込む私。

そんな私たちを瑠花が懐かしそうに見てた。



二人、息が上がるまで互いに打ち込んで
倒れ込むように、瑠花の傍に転がって仰向けになる。



「あぁ、気持ちよかったー」

「そうだねー」

「ホント、懐かしいわ。
 昔っから、そうやって息が上がるまで練習してたよね。

 そうやって、倒れた直後に敬里が姿見せてさ。

 花桜んちのお祖父(じい)ちゃんに、
 鍛錬が足りないって、必死に告げ口してさ」


「あぁ。そうそう。

 その後、ムカついて私と舞で、
 敬里(としざと)ぼこぼこにするまで打ち込んでたよね」
 



瑠花と花桜の言葉に、
懐かしい敬里の顔を思い出す。




「今頃、あっちはどうなってるんだろう……」



ぼそっと紡がれた言葉に三人の沈黙は続いた。


お寺の鐘が聞こえると花桜は慌てて体を起こす。 


「あっ、私……お寺に顔出さなきゃ。
 私に出来る事やりにさ」

「手伝うよ。
 舞、舞も手伝って。

 今近くのお寺に、禁門の変で犠牲になった人たちの
 炊き出ししてるんだ」



瑠花がそう言うと、私たち三人は勝手口から外に出て、
近所のお寺へ。


だけどそのお寺で聞こえてくる声は会津の悪口。


新選組の悪口。



そんな町人たちのイライラを抑制して、
落ち着かせようとする存在がいるのも新選組なわけで。


だけど……そんなことは気づくよしもない。


皆……誰かの責任にしなきゃ、心が耐えられないだけ。


折れそうになる心をギリギリで支えるのは、
憎しみの感情が一番作りやすいのかもしれない。



だけど……違うよ。