「あっ……あの……斎藤さんは……」
斎藤さんは何者なんですか?
斎藤さんは明け方まで何をしていたんですか?
湧き上がる疑問。
だけどそれは最後まで紡ぐことなく、
口元を彼の手によって、塞がれる。
「それ以上は言わない方がいい」
彼はひそひそ声で諭すように告げる。
そして私の口元を塞いでいた手が離れていく。
「えっと……あっ、別件です。
あの戦で命を落とした長州藩士たちはどうなったかわかりますか?」
気が付くと斎藤さんには、
本音がポロリと出てしまう自分に気が付く。
「長州藩士の行方?
だが大っぴらに聞いてまわれるものでもないだろう。
何か情報があれば伝える。
暫く時間を」
『斎藤……』
そこまで斎藤さんが告げた頃、屋敷の中から剣術の稽古の準備をした
永倉さんたちが姿を見せる。
『おいおいっ、朝帰りかよ。お前』
「すいません」
『女遊びもほどほどにしとけよ。
ったく』
なんてそれぞれが斎藤さんに話しかけながら
三人は道場へと姿を消していった。
そんな三人を見送ってもう一度、空を見上げる。
義兄をちゃんと供養したい。
屯所の手伝いが終わったら、
一人で義兄の行方を探しまわりたいって思ったけど
やっぱり難しいか。
義兄たち長州は御所を襲撃した朝敵扱い。
そうだよね。
朝敵となった長州の人たちに優しくは出来ないよね。
だからこそ……ちゃんと供養したいのに、
斎藤さんからはストップがかかっちゃった。
言わずに動けば良かった?
再度、深呼吸をして頬を両手で打ち付けると炊事場の方へと顔を出す。
「遅くなってごめん」
すでに朝食の支度を始めている二人に謝って、
井上さんにもお辞儀をする。
「舞、大丈夫なの?」
気にかけてくれる花桜と瑠花に、ゆっくりと笑い返す。