「あの下でも……焼け出された人たちがいるんでしょうね」



消えるような声で小さく呟いた総司。




「そうかもしれないね。

 生きるための戦いのはずなのに、
 その戦いの何処かで悲しんでる人がいる。

 本当に悲しいね」


「瑠花の世界は
 どうだったの?」



問われて思わず住んでいた世界を思い返す。


面と向かって見つめることなんてなかったけど、
脳裏に浮かぶのは、流れるように映ってたTVの映像。 



外国の戦争風景。

TVに映し出された空爆風景。

それは目を瞑りたくなるような悲惨な光景だったけど、
だけど私が住んでるこの場所は平和だったから、
そんなに意識したことはなかった。

だけど……この場所で戦いを知った途端……
そんなTVが映し出してきた風景の感じ方が変わった。

あの場所でも……友を失って哀しみ、家族を失って泣き叫んでる
一人一人のドラマがあるような気がして。



「……似たようなものだよ……」


総司の手をおそるおそる掴み取って伝わる温もりを感じながら呟いた。
それから暫く二人で黙って同じ方角を見つめる。


沈黙の時間を打ち消したのは、ケホケホっと続いた総司の咳。


思わず総司の背中を摩りながら覗きこむ。



「……総司……、何時からなの?」

「ここ暫くでしょうか。
 もしかして風邪をひいたのかもしれませんね」


紡がれた言葉に思わず総司の額に手を伸ばす。


驚いたような表情を浮かべて戸惑っていた総司も、
手を払いのけるわけでもなく、私の思い通りにさせてくれた。



「熱……大丈夫そうだね。
 だけどやっぱり心配だよ。

 明日、お医者さんに行こう?」



思い切って総司に提案する。




病院に行って総司の病気が風邪なら一安心。


肺結核なら……私も何とかして、
現代に帰る方法を本気で探したい。


総司に残される時間は僅かってことだから。


少しでもこんな緊迫し続ける状況から解放されたいと
望む私の我儘。




三日間、京の町を焼き尽くした大火はようやく落ち着き、
何時もと変わらぬ状態を取り戻した屯所に戦組が帰ってくる。


戦組は、禁門の変のお互いの武勲を讃えあい
留守番役に自慢げに話す。



留守番役たちが、どんな思いでこの場所を守って来たかなんて
誰も知ろうとはしない。


何時もと変わらぬ毎日で、ただ一つ違うことは、
今もお寺に炊き出しに向かうのが私と花桜の日課になっていると言うこと。


舞も目覚めてからは、
私たち同じように行動を共にする。



三人で炊き出しの支度をしていると、
思わず此処が幕末だと言うことを忘れそうになるくらい
何処か穏やかなひと時だった。




炊き出しの支度を落ち着かせると、
それぞれの時間を送り始める。



花桜と舞は道場へと顔を出し、
私は総司を引っ張って町医者へ。



そこで診察をして貰った後、
姿を見せた総司はにっこりと笑いかける。