明里さんと山南さんと過ごすゆったりとした時間。

長く続くと思いたかった時間も、
ふいに立ち上がった、山南さんの足音に崩れ去る。


「山南さん?」

「明里、落ち着いたらまた顔を出します。
 店主には身請けの話を通して帰る。

 近くの長屋に住まいを借りて、その場所でゆっくりと過ごせるようにするとしよう。
 その時にはもう一度、山波君を連れて来るよ」


明里さんに告げると山南さんは部屋の障子に手をかける。


「山波君、私と共に……」


差し伸ばされた手を取って、
私は懐かしい香りのする場所を後にした。


「明里さん、また来ます。
 今日は有難うございました」


明里さん……多分……私のご先祖様になる朱里おばあさまに、
お辞儀を終えてゆっくりとその部屋を後にした。


池田屋事件の後からどれくらの時間が過ぎてるんだろう。


ずっと閉じ籠っていたから、
全ての出来事から置き去りにされてる。



「山南さん?
 急に明里さんの傍を離れてどうされたんですか?」



そう問いかけた私に歩くスピードを緩めることなく、
さりげなく返された言葉。




「私が調べた情報ではそろそろのはずなんですよ。

 長州に不穏な動きがあると……。
 池田屋事件の際、京の火付けが噂されたと聞きます」

「はい。
 京の火付けを阻止した……新選組は英雄だと」

「英雄?」


立ち止まって不思議そうに私を見つめる山南さん。



「あっ……私……。
 無意識に未来の事を話したんですね」



瑠花のように歴史に強くなくても、
それでも知ってる新選組のエピソードだったある。



「構いません。
 今は私しかいませんから」




池田屋の後、長州が来るって何があった?
あぁ、もう少し真面目に勉強しておくんだった。


半ば思い出せない歴史に頭をかきながら考え込む。




「山波君、まだ噂の域を脱しませんが、
 長州が天王山に布陣を構えたと言うのです。

 御所を狙うとも伝わってきています。

 池田屋以降、長州の動きも一時の沈黙を見せましたが
 至る所で、企みがあるような情報も耳に届いているのです。

 それらの情報を重ね合わせて、感ずるに今夜がその時かと」



そう言いながら山南さんが私を連れて向かうのは屯所の方角。


帰る私たちとすれ違っていくのは甲冑に身を包んだ、
御所を守るために参じた幕府勢力らしい人。



「山南さん?

 新選組は?
 瑠花や舞たちは?」

「我ら新選組にも、今頃は出陣の命がくだっているかもしれませんね」


そう呟きながら、山南さんは怪我をしてから
思い通りに動かなくなった腕に視線を映した。



「山南さん……」


思わず、その不自由になった腕に自分の手を添える。