約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く



明里さんと山南さんと過ごすゆったりとした時間。

長く続くと思いたかった時間も、
ふいに立ち上がった、山南さんの足音に崩れ去る。


「山南さん?」

「明里、落ち着いたらまた顔を出します。
 店主には身請けの話を通して帰る。

 近くの長屋に住まいを借りて、その場所でゆっくりと過ごせるようにするとしよう。
 その時にはもう一度、山波君を連れて来るよ」


明里さんに告げると山南さんは部屋の障子に手をかける。


「山波君、私と共に……」


差し伸ばされた手を取って、
私は懐かしい香りのする場所を後にした。


「明里さん、また来ます。
 今日は有難うございました」


明里さん……多分……私のご先祖様になる朱里おばあさまに、
お辞儀を終えてゆっくりとその部屋を後にした。


池田屋事件の後からどれくらの時間が過ぎてるんだろう。


ずっと閉じ籠っていたから、
全ての出来事から置き去りにされてる。



「山南さん?
 急に明里さんの傍を離れてどうされたんですか?」



そう問いかけた私に歩くスピードを緩めることなく、
さりげなく返された言葉。




「私が調べた情報ではそろそろのはずなんですよ。

 長州に不穏な動きがあると……。
 池田屋事件の際、京の火付けが噂されたと聞きます」

「はい。
 京の火付けを阻止した……新選組は英雄だと」

「英雄?」


立ち止まって不思議そうに私を見つめる山南さん。



「あっ……私……。
 無意識に未来の事を話したんですね」



瑠花のように歴史に強くなくても、
それでも知ってる新選組のエピソードだったある。



「構いません。
 今は私しかいませんから」




池田屋の後、長州が来るって何があった?
あぁ、もう少し真面目に勉強しておくんだった。


半ば思い出せない歴史に頭をかきながら考え込む。




「山波君、まだ噂の域を脱しませんが、
 長州が天王山に布陣を構えたと言うのです。

 御所を狙うとも伝わってきています。

 池田屋以降、長州の動きも一時の沈黙を見せましたが
 至る所で、企みがあるような情報も耳に届いているのです。

 それらの情報を重ね合わせて、感ずるに今夜がその時かと」



そう言いながら山南さんが私を連れて向かうのは屯所の方角。


帰る私たちとすれ違っていくのは甲冑に身を包んだ、
御所を守るために参じた幕府勢力らしい人。



「山南さん?

 新選組は?
 瑠花や舞たちは?」

「我ら新選組にも、今頃は出陣の命がくだっているかもしれませんね」


そう呟きながら、山南さんは怪我をしてから
思い通りに動かなくなった腕に視線を映した。



「山南さん……」


思わず、その不自由になった腕に自分の手を添える。