「総司、戦いに来たわけじゃないんだから。
 総司は私たちのボディガード。

 久坂玄瑞でいいのかしら?
 私は岩倉瑠花。

 舞の友達。

 そして……これから
 起こる貴方の未来を知るもの。

 私たちは貴方の邪魔をしない。
 
 総司にも歴史を変えさせる真似なんて絶対にさせない。
 ただ……貴方たちの生き様を見届けさせてほしいの。

 誰よりも近くで……。
 それけが舞の願いだから」



瑠花が告げると義兄は「好きにしろ」と小さく擦れ違いざまに告げて
私の前を通り過ぎていく。


義兄が通り過ぎると、私たちと敵対していた長州兵たちも
一斉に動き出した。



向かっているのは、多分……最後の場所。


鷹司邸。




逃げ出したもの。


負傷した人たちが多い長州兵が死に物狂いで、
闘い続ける場所。





「久坂さん」




そう言って、大きな門の前に立つ長州兵。




「これで大丈夫だ。

 鷹司邸の裏側から御所に続いている。
 鷹司さまが……帝へと取り次いでくれる」




そう言いながら、塀を越えて内側から開門させた
義兄は私たちを残して、屋敷の中へと入っていった。





義兄……世の中は無情なんだよ。

貴方が信じて入ったその場所も、
もう貴方の願いを聞き届けてくれる場所じゃない。


その現実を知ってるのに、
私はそれを貴方に告げることすら出来ないでいる。

貴方の死が天が定めた、
運命なら……あがらうことは出来ないから。


一生分の餅は食べてきたって言った、
貴方の覚悟を私は知っているから。



だから……。




先に入った義兄たちの方へと私もゆっくりと足を進める。



鷹司邸の周辺は、
すでに追手の兵が集まって来ていた。




鷹司邸に火が放たれる。

風に乗って、赤い炎が義兄たちの居る場所を
飲み込もうとしてる。




「瑠花、私は行くよ。
 この為に、ここに来たんだから」



親友に告げて、私はゆっくりと最期の場所へと
火の手がまわる屋敷の中へと入っていった。


大砲が撃ち込まれる屋敷内。
命がけの逢瀬。



大砲の音に、震えながら
屋敷の中に突き進んでいく。



それと入れ替わりに、
屋敷から離れていく何人かの長州兵。




「あの……」


思い切って声をかけると、
最初のやり取りを知っていたらしい人が
戦闘態勢の兵士を抑えて、ゆっくりと教えてくれた。



「我らはこれより長州に逃げ延びます。
 殿に真実を話すために。

 久坂さんはこの奥にいらっしゃいます。
 全ての責任を背負うご覚悟です」