「舞、思い出して。
 禁門の変、伝わる布陣はどうだった?」


布陣?

勉強なんて大嫌いだったのに、
何故か……幕末の事だけは、妙に気になって
本を何度もめくってた。



「嵐山に遊撃隊・国司隊」

「そう。天王山は益田隊」

「伏見は……確か、福原隊」

「そうそう。

 さっき、近藤さんたちが長々と告げてたのは
 全てじゃないけど、監察から入って来た布陣情報。

 舞は余計な事考えないで、何となく、
 その布陣を理解しておけばいいから」



瑠花に誘導されるように脳裏に思い描いた、
京の碁盤地図。


そして……長州の布陣。



「これより我らは伏見に向かう」



一斉に掛け声と共に動き出した隊士たち。

伏見は蛤御門側じゃない。



「瑠花、私……」

「わかってる。
 久坂玄瑞は、益田隊に居るはずだから」

「うん……瑠花、私動くから」


隊士たちが次々と走っていく中、
私と瑠花は速度を落としていく。


その落としていく速度に、唯一対応していくのは、
瑠花の言うボディガード。


沖田総司。


隊列を逆走して、私の方へと近づいてくるのは
斎藤さん。



「加賀、隊を離れるなっ!」


近づいてきて告げた斎藤さんに私は黙ってお辞儀をする。


「斎藤さん、すいません。

 どうしても私、やるべきことがあるんです。

 もう同じ後悔はしたくないから。
 大切な人の死を見届けたい。

 ただ……それだけだから……」


口早に告げると、私は斎藤さんに背中を向けた。


「一くん、二人の事は任せてくれたらいいよ。
 僕はこの戦、別行動させて貰う。

 一くんは、近藤さんの願いを叶えて貰えると嬉しい」


沖田さんは聞こえるように告げると、
ケホケホと咳を続ける。



「総司……その咳、何時からなの?」


瑠花の声が一際、強くなる。


「瑠花、話は後で。

 一くん、この通り……僕はこの咳が続いているのが
 近藤さんと土方さんの耳に届いてしまって
 今回は留守番役を仰せつかったんだけどね、

 瑠花に頼まれると別行動しないわけにはいきませんしね。

 行ってください。

 近藤さんと土方さんには上手く誤魔化しておいてくださいね。
 この仮は、お団子で構いませんから」


沖田さんは予想外の言葉を並べて、私たち二人の傍に留まる。


そんな三人に背を向けて、
隊列に駆け抜けていく斎藤さん。


「さてっ、僕たちも行きましょうか?
 瑠花、加賀さん」


沖田さんはそう言って微笑むと、
すぐに戦闘モードへと殺気を放ちながら私たちの警護にまわる。