「瑠花、ほらっ、近藤さんと土方さんの前なんだから。
 すいません、近藤さん」


ギュっと両腕で強く抱きしめられる
私の視線に映るのは、瑠花に振り回される沖田さんの姿。
 

「ほらっ、瑠花。

 加賀を解放しないと、
 近藤さんが話が出来ないよ」



沖田さんは、そう言いながら
瑠花を説得するように話しかけながら、
ゆっくりと私たちの体を引き離した。




「瑠花……」





瑠花から解放された私は、
また涙が止まらなくなった。




だけど……私を抱きしめてくれる温もりは、
瑠花だけで、そこに花桜の姿はなかった。




嘘……。


山崎さんが、花桜も心配してるって
言ってくれてたのに……。




「総司、岩倉君。
 二人も、そこに座るといい」



近藤さんに促されて、沖田さんと瑠花も、
私の傍にゆっくりと腰を下ろす。




「さて……聞かせて貰おうか」




真剣な目でどれだけ求められても、
私は……自分の身に起きたことを話せるはずがない。


ただ……紡ぎだせない言葉の代わりに
涙が流れるだけ。




「舞……ほらっ、泣くだけ泣いて落ち着いたら笑って。

 近藤さん、今は舞をそっとしておいてください。
 大木に括られて見つかったなんて、
 怖い思いをした後かもしれない。

 恐怖から話すことが出来ないのかも知れない。
 私が舞を落ち着かせて、話を聞きだすから」



そう言って、瑠花が
優しく助け船を出してくれる。


何時の間に……瑠花はこんなに
強くなったように感じるんだろう。


ここに来た時は、
何も出来なかった泣いてばかりの瑠花。


だけど……今は、その泣き虫は私だ。



私は……まだ出来る事はあるの?




自分の中で問いかけるものの、
答え何てすぐに見つかるわけがない。




「ほらっ、舞。
 立てる?部屋で休もう?」




背後から抱え上げるように、
瑠花は私を立たせると、
何か言いたげな土方さんを振り切って
その場から退室させた。



久し振りに戻って来た
屯所内の私の部屋。


そこに瑠花は座らせると
部屋を出て、湯呑をお盆に乗せて
姿を見せる。




「はいっ。
 暑い時に熱いものだけど……。

 ほっとするかも知れないでしょ。

 ホントはココアとかあれば良かったんだけど」


瑠花から湯呑を受け取って、
ゆっくりと口元に運んだ。



「ホント……ほっとする……」

「でしょ?
 良かった……」




お茶を口元に運ぶ私の隣に、
瑠花は座り込んで何度も笑いかけてくれる。



「心配したんだよ。
 舞、お帰り」



お帰り……そう言って、
笑いかけてくれた瑠花の言葉。