「まぁ、えぇわ。
 加賀ちゃんを屯所まで連行する」





そう言うと、山崎さんを私を左手で
俵のように抱えると夜の闇に紛れながら、
移動を始めた。



半時間ほどで辿りついた屯所内、
私は山崎さんに抱えられたまま、
土方さんの部屋へと連れて行かれた。

 

部屋の前で、ようやく俵抱えから解放されて
私は床へとペタリと座りこむ。




「失礼します。
 加賀を連れてきました」




障子の向こう側に体を折って、
声をかける山崎さん。



「あぁ、中に入れ山崎」




山崎さんは障子に手をかけて、
ゆっくりと開いた。



「加賀君、山崎君、入りたまえ」



奥から穏和な声が聞こえる。



ペタンと座り込んだ足に
もう一度力を込めるように踏ん張って
立ち上がると、
私はゆっくりと奥の部屋へと入っていった。




この場所に連れ戻された。


逃げようと思えば
逃げることも出来たかもしれない。


だけど私は……この場所に戻って来た。


全ての運命から逃げだすように。



義兄も、晋兄も、
もう私を必要としてくれない。


だったら……この場で私の命が尽きるのも
運命なのかもしれない。




そんな想いを抱きながら、
ゆっくりと部屋の中に
自らの足で歩いて行く。



「おいおいっ、加賀。

 なんだ、その思いつめた顔は?
 今から死ぬわけじゃあるめぇし」



そう言って、土方さんが私に声をかける。



「加賀君。

 さて、斎藤君から話は聞いているよ。
 
 斎藤君の使いで隊を離れていたと。

 その途中、敵の手に落ちて大木に括られていたところを
 山崎君に発見されたようだが」


思いがけない状況に、私はただ、キョロキョロと土方さんと
近藤さんの姿を見つめることしか出来なかった。



「舞っ!!」



聞きなれた声と共に障子が開け放たれて、
瑠花が飛び込んでくる。