「ヒドイコトするなぁー。
 花桜ちゃん、心配してるでぇ~」


大木にくくられている私の耳に
何処からともなく声が聞こえて
私の前に姿を見せる隊士の一人……。


「えっと……やっ、山崎さん……」


突然の来訪者に、
戸惑いながら名前を紡ぐ。


「やっ、山崎さんって……つれへんなぁー、
 加賀ちゃんは。

 ほらっ、切るで。動かんでな」

そう言って懐から取り出した刃物で、
大木に括られた縄を切る。

その途端、遮るものがなくなった私の体は
真っ逆さま。


「キャー」


衝撃を覚悟した私の身には
抱きとめられた感覚が包み込んだ。



「あぁ、堪忍。堪忍
ちょっと油断してもーた。

 加賀ちゃん落としてもうたら、花桜ちゃんにも、
 もう一人掴みどころのない兄さんにも怒られてしまうわ」 


山崎さんは、一人ブツブツといいながら
私をゆっくりとその場で、立ちあがらせた。


ゆっくりと向き直った瞬間、
今までのちゃらけてた雰囲気が、
一気に緊迫感へと変化を遂げていく。


「加賀舞、何故ここに居る?」


幸い、刃物は首元に当てられてはいないけれど
その緊迫感は、まさにそれにも匹敵する。


放たれる殺気に、
震えが止まらなくなる体。


だけど……真実は話せない。



話せない代わりに……ただ涙だけが
止まることなく溢れだしてくる。



義兄の覚悟……晋兄の想い。


もう修正することのない、
二人の決意。


変わることのない歴史。
帰ることが叶わない運命。



運命の波に逆らうことが出来ない
現実の重さ。






「なんや?」




ただただ、言葉を発せずに泣き続ける私に、
山崎さんの殺気がゆっくりと消えていく。