あっ……私、義兄を晋兄に説得して欲しかったんだ。



どうして晋兄を探し続けていたか当初の目的を
ようやく思い出した私は、
必死にまだ怠い体を布団から起こそうとする。



必死に起き上がろうとする私に
晋兄は、ゆっくりと体を起こしやすいように支えてくれた。


そんな晋兄に縋りつくように、
私は自分の想いを吐き出す。




「晋兄、助けて。
 義兄が死んじゃう」


晋兄の腕を掴む指先にも力が入る。



脳裏に思い浮かぶのは、
時折、脳裏に蘇る記憶。



鎧を纏って歩いていく義兄。


そして……義兄はそのまま死んでしまった。



義兄の死を知って、崩れ落ちながら、
何度も何度も、土を握りしめて涙を流し続けた
あの悲しい想いはもう二度としたくない。



だから……義兄を助け出したい。



「晋兄、この間私……義兄に会ったの。

 屯所に私を訪ねて来てくれた子供が居て、
 義兄からの手紙貰って会ったの。

 同じように、義兄に伝えたのに届かなかった。

 もう一生分のお餅は食べてきたからって
 言われちゃった」



一生分のお餅は食べてきたって、
もうお正月を迎えることはないって
死は覚悟の上だよって。



「もう……あんな思いするの嫌だよ」




そのまま、絞り出すように
自分の感情を出していく。

涎なのか、涙なのか
もう混ざりすぎてわからないものが
着物に染みをつくっていく。



晋兄は、私が涙を流し続ける間、
想いを吐き出し続ける間、
ずっと抱きしめて、髪を撫で続けてくれた。




そしてゆっくりと落ち着いたところで
教えてくれた。




私が知らない、
晋兄と義兄の想いを……。





「最初は、義助も『朝廷からの退去命令に背くべきではない』と
兵を引き上げようとしていたんだよ」って。


だけど義兄の想いが
同胞に受け入れられることがなかったんだ。


来島又兵衛って人が、
進軍を躊躇するとはなんたることかって、
義兄を強く責めながら詰め寄ったんだと。


それでも義兄は、
必死に来島さんを説得しようとした。



今回の件は、藩主の無実の罪をはらせればいいから、
嘆願を重ねればいいだろ。

自分たちから手を出して、
今以上に状況を悪くしたらどうするんだって。



それよりは、必勝の見込みが立つまで
待つ方が得策だろうって。